目下、ヒット中、話題沸騰のアメリカ映画。ボブ・デイランの若き日を描いたものですね。前評判が良かったですから楽しみにしてたんですが、期待に違わなかった。想像していた通りでしたけど、ここまでとはと思いませんでした。
ミネソタ生まれのデイランが敬愛するフォークソングの父、ウデイガスリーが入院したことを知って病院に見舞いに行くところから始まる。フォークの新星として爆発的な人気を得たもののそこに満足せずエレキギターを持つてロックをやり始める。
60年代の音楽だけじゃなく戦後のロック史の劇的な転機になった瞬間を丁寧に描いている見事な音楽映画。何がすごかったか。一にも二にも主演のテイモシー・シャラメという若者が素晴らしかった。
顔はそっくりさんという感じじゃないんですが、歌は驚きました。ここまで感じを出せるんだと思った。声にしろ歌いっぷりにしろ本物に聞こえる。どこが違ってるとかどこが似ているというようなことより、ともかくデイランなんです。
歌と声と表情と動作。もちろん僕らはその頃のことは写真や数少ないドキュメンリーでしか知らないわけですが、そうか、こういう感じだったんだなと納得させてくれる。共演者もそう。ピート・シーガーとかジョーン・バエズとか実在の人達です。
みんな音楽の歴史に残る個性の持ち主ばかり。コンサートシーンも多い。役者さんで出来る映画じゃないでしょうし。彼らの歌もミュージシャンの演奏にも偽者感がない。舞台になったニューヨークの街並みも60年代当時を思わせる。
ここから追加です(笑)。昨日。嫌味になるかなと思って書かなかったのですが、書き込みの中にデイランのアルバム「フリー・ホイーリン」のジャケットについてどう思ってたかというようなくだりがありました。よくぞ聞いて下さいました、という感じです(笑)。
若き日のデイランが恋人と一緒にグリニッジビレッジを歩いている写真ですね。俯き加減のデイランと腕にすがるような彼女。20代前半という年齢があんなにフォトジェニックに表現されているジャケットは他にないでしょう。
恥ずかしながら憧れてました。あんな風にマンハッタンを歩いてみたいと思ってました。実現したのはもっと時間が経ってからですけど。浜田さんのファーストアルバムの裏ジャケットに同じような臭いを感じたんですね。(ここまで追加)。
で、デイランが評判になったニューヨークのライブハウス、フォークシテイは、81年に小室等さんが拓郎さん、陽水さんと一緒にやった「ニューヨーク24時間漂流コンサート」の時に僕も行ったんです。こういう感じだったなあと思えました。
ハイライトが65年のニューポート・フォークフェス。デイランがエレキを持って登場して大ブーイングを浴びるステージです。それまで別な流れだったフォークとロックが一体になったフォークロックが誕生した瞬間です。
当時のフィルムを使ったドキュメンタリーは見てますし、その頃のことを書いた本は沢山読みました。でも、実際にそこにいるように思えたのは初めて。そういう意味での再現映像。タイムマシーンに乗ったような音楽映画でした。
デイランがいなかったら、ロックはどうなっていたでしょうね。ジョンレノンがデイランに出会って変わったという話は有名です。「ニューミュージック」というのは「ビートルズとデイランの影響で生まれた新しい日本語の音楽」と定義していいでしょう。
岡林さんも拓郎さんも浜田さんも佐野さんも誕生してなかったと言って過言じゃないでしょう。そう思いながら見て頂けるとまた違うリアリテイもあるでしょう。でも、マニアックにも下世話にもならない映画としてのまとまりは見事でした。
ということで曲です。浜田さんの「初恋」。歌詞の中の「Bringin It All BackHome」はフォークロック誕生の歴史的アルバムのタイトル。あの中の最後の曲が「エレキ」を拒否されたデイランがアコギで歌った曲です。じゃ、お休みなさい。