先日お伝えした、FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」の2月の特集の三週目と四週目。フォーライフレコードに残した二枚のアルバム、76年の「家族」と75年の二枚組ライブアルバム「ライブ泉谷!王様たちの夜」のご紹介。金曜日に無事収録しました。
泉谷さんは目下プロモーション真っ最中。僕らの後にNACK5「k's Transmission」の生放送というハードスケジュール。僕らの番組はCDについてあれこれ訊かれるわけですが、坂崎さんの方は二人でギターをかき鳴らしながらスタジオライブ。ラジコで聞いていても楽しそうなのが伝わってきました。
あれこれ、訊きましたよお(笑)。僕は「家族」も「王様たちのよる」もスタジオ盤とライブ盤という両方のアルバムでの代表作と思ってるんですがあまり語れることがない。フォーライフレコードは75年に発足してるわけですが、第一弾アルバムが「ライブ泉谷!王様たちの夜」。最初のスタジオ盤が「家族」なんです。
アーテイストが作った日本で最初のレコード会社が出す最初のオリジナルですからね。「家族」は他の人には作れない名盤です。バックを務めているのがサウス・トウ・サウス。上田正樹さんと一緒にやっていたソウルバンド。上田正樹さんは関西を代表するブルースシンガーですけど、そういうコテコテ感がない。
アコーステイックだけどソウルにスイングしてる。小粋なラグタイムミュージックという感じ。それが泉谷さんの歌に軽さを与えてる。フォークシンガーという感じがない。拓郎さんは今もオレはフォークじゃないと言ってますけど、「家族」の泉谷さんもギター一本のフォークシンガーじゃないですね。
でも、歌はシリアスですよ。一曲目が「野良犬」。野良犬がうろつく街の人間模様。弱いやくざがチンピラに絡まれたり八百屋のおかみが駆け落ちしたり、モノクロの映画のシーンを見るような歌がそういう音楽の軽さで際立ちます。あのイメージがどこから来たのか、ようやく聞けました。
黒沢明監督の「野良犬」だったそうです。彼は根っからの日本映画のマニアですからね。黒沢監督の作品がいかに素敵かを滔々と語ってくれました。全曲にそういうイメージがある。アルバムの中に「少年A」という短い曲があるんです。家に会った「白い粉」で新聞に載ってしまう少年Aを歌った曲。
それも黒沢監督が映画いた戦後の盛り場の片隅の話だった。当時、ジャズミュージシャンの中にも「ヒロポン」というドラッグが広まってましたからね。作曲家、中村八大さんもそこから抜け出すための壮絶な日々を過ごしてます。
彼の「雑踏」や「盛り場」の描写は群を抜いてます。高度経済成長から抜け落ちたような現実が持つ寂寥感が一枚のストーリーになってました。タイトル曲の「家族」は当時、ニューファミリーと呼ばれた「新しい家族」の内実が歌いたかったと言ってました。
僕も含めてあの頃、そんな風に語られた記憶がないんです。「地味なアルバム」としか思われてなかった気がします。フォーライフは時代を動かすスター集団に見えてましたからね。それも意識した上で、だから作ったという確信犯的アルバム。彼が最初に抜けたのも必然だった気がします。
アルバムの中に拓郎さんがハモニカで参加している「行きずりの男」という曲があるんです。泉谷さんを最初に誘ったのも拓郎さんで、抜けた時に最後まで引き留めたのも拓郎さんだった。50年近くたったから話せる当時のことも語ってくれました。
あのアルバムをちゃんと紹介したい、とずっと思ってましたけどようやく果たせた気がしました。明日が特集の一週目です。三週目は何日だ。2月の17日オンエアです。というわけで「野良犬」を。僕らも野良犬みたいなもんでした。じゃ、お休みなさい。