という本が発売になってます。六本木の伝説的レストラン「キャンテイ」のオーナー、川添浩史さんを主人公にした小説。書いたのは作曲家、アルファミュージック設立者、村井邦彦さんと日経新聞の論説委員、吉田俊宏さん。
二年前にリアルサウンドという音楽のウエブサイトで連載が始まったものがようやく完結、書籍となってます。FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」で取り上げようと思って、村井さんのゲストインタビューを収録しました。
当時「アルファミュージック」の特集で来て頂いた時にも小説の話は出ていたのですが、まだ始まったばかりでしたからね。どんな形で終わるのだろうと思ってましたけど、予想を遥に凌ぐ面白い小説でした。
これまで読んだことのない小説、という感じです。主人公は川添紫郎さん。「モンパルナス1934」というのは、彼がパリに留学した年なんですね。ヨーロッパはヒットラーのナチス・ドイツとスターリンのソビエトがせめぎ合っている。
日本は満州に進出して世界から批判させて国際連盟を脱退、孤立化の道を進んでいる。第二次大戦前夜のパリが舞台。川添紫郎さんは、明治維新の立役者、後藤象二郎の孫という名門の血を引いている若者ですね。
彼は学生時代に左翼運動に加わって逮捕され、運動から離れることを条件にパリに留学するという始まり。そういう激動の時代ならではの様々な出会いを経て「自由」の意味を知ってゆくというのが大まかな流れですね。
ともかく色んな人が登場する。フランスの作家や詩人、画家や思想家。共産主義やナチスに迫害されてパリに集まってきている。歴史上の人物がまだ無名で明日を夢見ている。パリの街や喫茶店がその舞台なんです。
誰もが知っている人では岡本太郎さんがまだ勉強中だったり、戦争写真家で知られるロバ-ト・キャパがナチスから逃れてきてカメラを質に入れてしまった貧乏青年で、紫郎さんがカメラを借りてあげることからプロの道に進んだとか。
ともかく当時の著名人、大物、後に有名になる人たちが登場、パリの街やお店、道路や駅を舞台に映画でも見るように生き生きと描かれている。音楽、建築、絵画、ファッションなどの説明が織り込まれている。
当時の日本のことも描かれてますね。日本がドイツ・イタリアと三国同盟を結んだ時にヨーロッパの人がどう思ったか。紫郎さんが「ファシスト」とののしられた話とか。戦争のことを海外の視点で書いた小説というのも多くないでしょう。
戦後の日本の文化人が戦争をどう見ていたかという話もかなり具体的、学術的な例をあげて出てきます。それも紫郎さんから浩史さんと名前の変わった彼が経験したこととして出て来るんで分かりやすい。勉強にもなりました。
なぜ彼が「キャンテイ」を開こうと思ったか。「自由のサロン」を東京でも作りたかった。村井さんは高校生の頃から出入りしていてその空気を知っていた。川添さんは「アヅマカブキ」という日本の踊りの海外ツアーを行ってるんですね。
その夢を受け継いだのがYMOのワールドツアーだった。村井さんがアルファーの社長室で成功の報せを聞いて涙を流すという場面で終わってました。戦争を経験した文化人の「自由」を求める志や願いが脈々と流れているという小説なんです。
どういうジャンルに入れればいいのか分からない。こんなに知的で歴史的な娯楽小説があるか、というくらい。共著の吉田さんは日経新聞の文化芸術担当だった論説委員。博識で知られてます。この二人じゃないと生まれないでしょう。
村井さんは今日も「映画化したい」とはっきり言われてました。彼の息子さんはアカデミー賞に名を連ねたこともある映画監督なんですね。ハリウッド製の大作になることを期待したいと思いました。
というわけで、曲ですね。そういうバックグラウンドがあってYMOを聴くとまた違って聞こえるのではないでしょうか。YMOで「東風」を。じゃ、お休みなさい。そうだ、特設サイトにレビューを書いてます。お時間あれば。