そういう言葉があったんですよ。70年代前半。言葉というよりスローガンみたいなもんですね。「合言葉」か。どういうことかを一言で言うと「大人を信じるな」ですね。というようなことはもう殆どの人が知らない。
今日、若いライターと話をしていて「それ、何ですか」と言われたんですよ。「そういうCMでもあったんですか」「何でですか」という矢継ぎ早の素朴な質問が飛んできました。そうなんだなあ、と妙に納得してしまいました。
一応、説明はしたんです。その頃は、「大人」と「若者」の間に断絶があって、話も合わない。ことごとく対立していた。そういう断絶の境目が「30歳」だった。ああいう大人にはならないようにしよう、色んな反発の象徴の言葉だった。
という話をしても「ふーん」という感じ。彼は30代になったばかり。「ということは、その頃の若者の方が早熟だったということですか」という不満そうな答えも返ってきました。「年齢」に対しての感覚はこんなに変わるのかと思いましたよ。
何でそういう話になったか。達郎さんの「Melodies」の30周年盤の達朗さんの解説を読んでたら「クリスマスイブ」のところに、「当時、30歳というのは才能のピークと言われていた」と書いてあったからですね。
あのアルバムは、30歳というん年齢を意識して作った。自分で歌詞を書くこととそれまでの基軸だった「16ビート」から「8ビート」に軸足を移した。でも、そこにバロック音階を取り入れて年齢を超えようとした、と書いてたんです。
つまり、「クリスマスイブ」は、偶然生まれたわけではなく音楽的な確信があって作った。「30歳」というのが重要なモチーフだった、という話から「30以上は信じるな」になったわけです。そうしたら「ふーん」でした。
達郎さんも「30以上は信じるな」の時代を知っているわけですからね。あの曲をそんな風に聞いている人はどのくらいいるんだろうとも。まあ、知ってるからと言って評価が変わるような曲じゃないでしょうけど。
でも、「年齢」で「敵味方」みたいに分ける方が変なわけで、70年代というのは妙な時代だったと改めて思ったわけです、って今頃ね(笑)。だからと言って若い人たちから「反骨精神」みたいなものがなくなっていいのだろうかとは思います。
長いものには巻かれろ、寄らば大樹の陰、からは新しいものは生まれないでしょうし。特に気候変動みたいなことに関しては「30以上は信じるな」でもいいんじゃないかとかね。話が逸れてますけど。と書きながら、45年前の話だよなあとも。
曲ですね。ムーンライダーズにそういうタイトルの曲があるんです。「DON’T TRUST OVER THIRTY」。彼らが30代になってからの曲。「俺たちを信じるなよ」というシニカルなメッセージ。彼ららしいです。じゃ、おやすみなさい。