今年の芥川賞の候補になったと話題の一作。2012年にメジャーデビューしたロックバンド、クリープハイプのヴォーカル&ギター、尾崎世界観さんが書いたものですね。12月8日に6枚目のフルアルバム「夜にしがみついて、朝まで溶かして」が出ます。
今日、NACK5「J-POP TALKIN’」のインタビューがあるんで読んでみたんですが、ミュージシャンが書いたとは思えないいい小説でした。と書くとミュージシャンを低く見ているということになるのかな。
そんなことないですよね。片手間とは思えないというのかな。本業じゃない人、という意味ですね。尾崎さんは、2016年に「祐介」という小説も書いてます。それは「バンド貧乏小説」という感じでした。
つまり今の世のなかではバンドをやろうとすることは最底辺、どん底の生活を覚悟することなんだ、という青春小説で、バンドが軸になってました。私小説というほど自分のことじゃなくても体験が元になっていることはすぐに分かります。
「母影」はそうじゃないんですよ。主人公は小学校の低学年の女の子。文体も平仮名が多くて子供の文体。しかもシングルマザーに育てられている。その母親は「変態マッサージ」のお店につとめているという設定。
学校ではいじめられて居場所がなくて、家にはいられずに母親が働いているお店にいつもいる。カーテンの向こう側で母親がお客さんの相手をしている。カーテンの影を見たり漏れてくる会話で、母親の仕事を理解はしなくても想像は出来る。
そういう女の子の街中の心の動きや大人に対しての不信感とか嫌悪感とか、同情とか、母親に対しての揺れ動く感情が独り言のようにつづらてゆくんです。そんなに登場人物は多くないですけど、どこにでもいそうな人ばかり。
威張っていた同級生とか先生とかが思いいがけない一面があってそれが社会の縮図のように思えたりもする。主人公が少女ですからね。少女と性、という微妙なテーマを扱っていながら話が大げさにもならず、感情的にもならない。
同情を引こうとか、世の中の矛盾を訴えようとかじゃない。淡々としていてそれが胸を打つ。平仮名メインの120頁ですからすぐに読めるんですが、何とも切ない。「祐介」の時は「達者だなあ」という感想でしたけど、「母影」は違いました。
一言でいうと「作家だなあ」という感じ。書いている人間との作品の距離感が「作家」。さすがに受賞は逃しましたけど、「言葉」をこんな風に表現できるシンガーソングライターがいると知ってもらえただけでも意味があったと思います。
インタビューは開始時間を間違えるというこちらの不注意で至らないものになってしまいましたけど。人の話をちゃんと訊くのはほんとに難しいです。アルバムは力作です。ということで明日は小田さんの「クリスマスの約束」の観覧です。
浜田さんの武道館公演も発表されました。また変異株が登場、無事に行われることを祈るばかりです。曲ですね。クリープハイプの新作「夜にしがみついて、朝で溶かして」から「ナイトオンザプラネット」を。じゃ、おやすみなさい。