10月25日に発売になりました。23枚目のアルバム。2019年の「Design&Reason」以来。その間にあの事件がありました。思ってもいなかったような出来事を経てのアルバム。タイトルは「直進」という航海用語。再出発のアルバムです。
イントロダクションがあります。「東京の蕾」というサブタイトル。その後に二曲目が「ハロー!トウキョウ」。彼が初めて東京に来た時のことを歌ってます。舞台は初めて住んだという街。終電がその駅までなかったんで歩いたという体験が歌われてます。
同じ日に小貫信昭さんが書いた「槇原敬之・歌の履歴書」という本が出ました。小貫さんがMr.Childrenで書いた「読むベストアルバム」というスタイルですね。代表曲を通じて、そのアーテイストの人となりを書いてゆく。
その最後の章が「宜候」。アルバムの全曲についての槇原さんの解説が入ってます。「ハロー!トウキョウ」が、自分のことだということとか、16歳の時にデモテープを送ったNHKFMの番組「サウンドストリート」のテーマが紛れ込ませてあったりとか。
東京のことを歌った94年の「東京DAYS」が重なっていたりとか。アルバムが個人的である分、そういう話が参考になります。初めて東京に出てきてからの様々な出来事。流れていった時間を今、改めてかみしめている。
何を手にして何を失ったのか。どんな出会いや別れを経てきたのか。親しい人との別れだけじゃなくて、他界した友人のこととか。「悲しみは悲しみのままで」というタイトルの曲もある。全部受け止めているという達観みたいなものもあります。
「特別な夜」というのは、そんな端的な例でしょうね。「本」によれば、去年、色んなことがあった時の励ましてくれた中学生時代の友人がなくなった。みんなで集まった時のことが歌になっていたり。若い時には書けなかった曲でしょうね。
どの曲にも角度を変えてそういう内省的な心境が淡々と歌われてるんですが、今までに試みたことのない曲もあります。音楽プロデユーサー、須藤晃さんの詞に曲をつけて「わさび」は、松本人志さんが詞を書いた「チキンライス」以来。
おばあさんの視点で歌われている。20代の時から「早く年を取りたい」と言ってた槇原さんにとっての今の「老い」の歌でしょう。犬好きで知られていた彼が猫を題材にした曲もあります。やっぱりどこか生活感が変わったのかなと思わされます。
なぜ人は誰かが決めた枠や価値観に縛られないといけないのか、そういう先入観というのは何なのか。「虹色の未来」は、「世界に一つだけの花」の続編のようですし。もっとテーマがはっきりしてます。
本の中では「事件」のことも話してました。「やってなかった」ということも言葉少なに言い切ってました。そして、留置されている間にも曲を書いていたり村上春樹さんを読み直したり、「鬼滅」を読んだりしていたとも。
色んなことを覚悟していた、それも悲壮感を感じさせない。身に覚えのないことで犯罪者扱いされたことも引き受けている。でも、「宜候」という言葉は捕まる前から、今度のアルバムはこれかなと思っていたともありました。
いずれにせよ再出発のアルバムという色は濃いです。そして、「純東京産」の最後のアルバムともありました。東京は離れるんだそうです。色んなことが浄化されたようなアルバムにも聞こえました。今までのアルバムとは違います。
ということで、NACK5「J-POP TALKIN」でミニ特集みたいな扱いに出来ればと思ってます。もちろん本人は出ません。曲ですね。まさに今の心境でしょう。タイトル曲「宜候」を。じゃ、お休みなさい。