これも久しぶりに聴きました。共同通信の「80年代ノート」の一環。1982年近辺を書いてるんですね。この間、ユーミンの「PEARL PIERCE」がありましたけど、あの次に何を書こうかと思っていて、やっぱりこれということになりました。
同じ1982年ですからね。「PEARL PIERCE」とは違う意味で80年代を決定づけたアルバムでしょう。「悪女」と「歌姫」が入っているというのがその根拠ですね。「傾斜」もありますね。今聞くとあの歌は「老い」をテーマにしてるようです。
あの頃から「年をとる」という意識があったんだなあと。泉谷さんじゃないですけど、みんな老成していたことになるんでしょうか。みゆきさんだって30代になった年。やっぱり「30以上は信じるな」の世代だったんでしょうね。
この話は今の人には全然通じませんね。30歳というのがそういう年齢だった。30代になるということで急に目の前の坂道が険しくなるように感じられた。それを「素敵なこと」と歌っている。当時も背中を押される気がしてました。
みゆきさんの80年代は、あの「生きていてもいいですか」で始まってますからね。軽薄短小、能天気に明かるかった80年代をキャリアで最も暗いアルバムで始めている。そのことは今の方が客観的に見えますね。
「寒水魚」は、そうじゃないですもんね。いじらしさの極致のような「捨てるほどの愛でいいから」もありましたし。いいアルバムだなあと思って聴き直してました。「悪女」もシングルバージョンとは全然違う。
軽やかだったシングルに比べてもっと複雑。音にも凝ってる。「悪女」感が違ってましたね。「わかれうた」に次ぐ二作目の一位の曲を全く違う文脈で解釈する。そういう発想はのちの「夜会」に繋がっていくわけですが。
でも、何と言っても「歌姫」かなあ。あの歌は好きでしたねえ。今も好きですけど。”握りこぶしの中にあるように見せた夢を”というのは泣けます。空しさと戦いながら歌い続けることの意味を見つけようとしている。
当時の「月刊カドカワ」を見ていたら「歌姫は自分のことじゃなくて、歌姫に向けて歌ってるのに、私のことみたいに思われてしまって」というインタビューがありました。「月刊カドカワ」は、90年前後数年分全部持ってるんですよ。
当時の資料とか見たりインタビューを読んだりしながらの作業は楽しいですよ。原稿は字数が少ないんで頭を使いますけど、って当たり前か。でも、みゆきさんは新作を扱うことがずっと続いてたんで、こうやって聴き直すと色んな発見があります。
僕の初めて書いた本が「33回転の愛のかたち・あなたはユーミン、それともみゆき」だったんですよ。84年です。今はなきCBSソニー出版。あれを書く時は二人の曲を聴きまくってましたけど、そんなことも思い出してました。
ということで、「歌姫」、改めて感動でありました。今日も30度超えでした。最後の真夏日。文字通り、暑さ寒さも彼岸までになりそうです。左手がばね指で握りこぶしを握るのが大変ですって、関係ないか(笑)。じゃ、おやすみなさい。