今日、発売なんですね。5年ぶり10枚目のアルバム。面白いタイトルだなあというのが第一印象。こんな彼の言葉がついてました。”憂鬱と夢見心地を行ったり来たりの我が心模様は、いつだって誰かを羨み、此処ではない何処かに行きたがるのです”。
平井堅さんは、95年5月13日にデビュー。去年から今年がデビュー25周年。その記念の年の最後の日に発売になるアルバムということになりますね。来月のANAの機内放送でアルバムの特集をするんですが、かなり異色のアルバムだと思います。
彼のイメージは、入口になった曲によって違うんでしょうね。「瞳をとじて」とか「大きな古時計」とか、出世作になった「楽園」とか。でも、セクシーな美声の二枚目というのは共通しているんじゃないでしょうか。
そういうアーテイストの記念のアルバム、という意味で言うと決してお祝いアルバムじゃない。むしろ、そういうセレモニー的なお祭りには不似合いなアルバムと言っていいでしょう。盛り上げようという演出感は感じません。
先行シングルになった「ノンフィクション」が象徴的。何せ”描いた夢は叶わないことのほうが多い””優れた人を羨んでは自分が嫌になる”と歌ってる。ありがちな”頑張れば夢は叶う”的なポップスに一線を引いてました。
アルバムにはシングルになった曲が多くはあるんですが、シングル単体では感じなかった共通点が浮かんでくる。それは、人の心のネガテイブな面も歌にすると言っていいんじゃないでしょうか。
彼は決して華やかなデビューをした人じゃないですね。デビューシングルの最高位が50位。その後は2000年に出た8枚目のシングル「楽園」までランキングにも入らなかった。もし、これでだめだったら、というのがあの曲でした。
そういう始まりの25年をどう歌うか。こんなに苦労したんです、というお涙的な苦労話にも頑張れば花が咲く、という応援歌にもしない。でも、悶々とした葛藤や屈折の中で人を羨んだり嫉妬もしんだろうな、と思わせてくれる。
それでいて私小説にならないバランス。そういう作風の大人のシンガーソングライターは多くないなと思わせてくれるアルバムでした。三年前か、JUJUに書いた「かわいそうだよね」を聴いた時に驚いたんですが、その延長線上にある気がします。
あの曲は、自分より劣っていると思う女性を「かわいそうだよね」と上から目線で同情していた女性が、実は、自分がそういう立場になっていた、ファッション業界や芸能界の悲哀をシニカルに歌ってました。
アルバムに「オーソドックス」という新曲があったんですよ。”私はこの街が嫌い”と歌ってる。「好き」を歌うことの多いポップスで「嫌い」と言い切っている。しかもタイトルが「オーソドックス」。面白い曲だなあと思いました。
鳴り物入りのアニバーサリーアルバムじゃない分、どんな風に売れるんだろうと。もし、ご興味あれば。この間インタビューしたさかいゆうさんの「愛の出番+Thanks to」も今日発売です。対照的ですがともに力作アルバムです。
というわけで、平井堅さん「オーソドックス」を。「嫌い」と言いにくい日本ですからね。同調圧力への抵抗の歌、というとこじつけかもしれませんが(笑)。じゃ、おやすみなさい。