去年、最も話題になった新人。瑛人。YOASOBIと同じようにCDも出しておらず配信デビューという状態で「紅白歌合戦」に出てしまった最初の二組のひとり。ソロアーテイストでは史上初、ということになりますね。
二組にはデビュー曲「香水」と「夜に駆ける」がともに動画再生回数一億回超え、という勲章もあるわけです。1月にそれぞれデビューCD「THE BOOK」と「すっからかん」が出ました。対照的なアルバムでした。
アルバムが、というより成り立ちからして、対極的な二組だなあと思うんです。この間書きましたけど、YOASOBIは、ソニーが運営する小説投稿サイトがパートナー。「小説を音楽にする」という「戦略」があります。
ソニーの中には「小説」好き、「活字マニア」のスタッフもいるんでしょう。そこに新しい可能性を見つけようとしている。コンセプトがしっかりしている。瑛人さんは、その対極。去年の今頃はフリーターだったという普通の若者です。
普通の、というより何の変哲もない、と言ってもいいのかもしれません。あまりのシンデレラぶりに「一発屋」という風評にさらされてます。でも、アルバム「すっからかん」を聴いたら、そういう感じはしなかったんです。
「一発屋」というのは、たまたま生まれた一曲のヒットだけで終わってしまう。何年経ってみると、もう存在すら忘れられてしまう。「あの人は今」状態ですね。そういうアルバムには思えませんでした。
たしかに「香水」は、たまたま生まれたヒット曲でしょう。もちろんアルバムの中では際立って印象的な曲、いい曲ですよ。でも、他の曲とそんなに落差があるという感じでもない。他の曲とはちゃんと地続きな気がしました。
何が「地続きか」。生活感。お金もなければ秀才でもない、将来が約束されているわけでもない、かっこよく成り切れない若者の生活感。そして女の子にたいしたこともやってやれない、毎月1万円の貯金することが大問題な若者の恋愛観ですね。
背のびもしないしすねてもない。それでいて明るい。そう、明るいことに好感を持ちました。歌にも軽いリズムがある。「香水」を初めて聞いたのは、「ミュージックステーション」だったかな。いや、違うな、知っていてエムステを見たんだ。
最初に聞いた時の「誰、これ?」というのは、あの軽いリズム感にあったんですよ。生ギターで歌ってるけど、フォークという感じじゃなかった。むしろ、ヒップホップ以降な感じがした。歌も決してうまくないけど、どこかほっとさせる。
アルバムの中には、フォークっぽいバラードもありましたけど、それじゃない感じがしたんですね。アメリカのストリートミュージック、みたいな感じの曲もありました。でも、泥臭くもマニアックにもなってない。
こういう大ブレイクをすると、その後は大変ですけど、これを続けていけばいいんじゃないかなあ、という感じでした。今、お笑いのネタになったり茶化されるようになってますけど、そこは正念場でしょうね。
消費との戦い、みたいな時期。ただ、ライブが出来ないんで、どんな風に成長してゆくのか、自分で見つけて行かないと、なんでしょうけど。でも、「一発屋」とは思えません。アルバムの中から「俺は俺で生きてるよ」。ちゃんと生きていけよ、ということで。じゃ、おやすみなさい。