1月6日に発売になった彼らのデビューアルバムですね。去年の紅白で初めて知ったという方もたくさんいらっしゃったんだと思います。去年の年末の段階でもまだCDは出てませんでした。全部配信シングル。それでいて紅白でした。
瑛人の「香水」もそうでしたからね。CDを出してない人があんなに話題になったばかりか、再生回数が1億を超えるというすさまじい反響を呼んだ。これは2020年最大の特徴だったと言っていいでしょう。
大げさに言ってしまえば日本音楽産業史上初、ですね。アナログにしろCDにしろパッケージがあってこそだったんですが、ついにそうじゃないアーテイストが出現した。そういう結果を残した。その象徴がYOASOBIということになります。
タイトルが「THE BOOK」。紅白の中継が膨大な書庫のような場所だったことも関係してますね。もう説明もいらないでしょけど、「音楽と小説」というコラボレーションの中で生まれたユニットでした。
ソニーミュージックが運営する投稿小説のサイトと連動している。デビュー曲の「夜に駆ける」は、そこに投稿されてソニーミュージック賞を受賞した「タナトスの誘惑」という小説をモチーフにした曲だったんですね。
簡単に読めます。とっても短い小説でした。昔風に言えばショートショートというやつですね。僕らにとっては星新一さんという名手がすぐに浮かんできますけど、今の若い人にとっては、かなり身近な形なんでしょう。
”タナトス”というのは”死”ですね。自殺志願者の女の子とそれを助けようとした男の子のお話。ちゃんとオチがついていてよくできてました。お話を読んで「夜に駆ける」を聞くと更に情景が浮かぶという関連性があります。
でも、”小説”を知らなくても歌として十分に楽しめる。だからこそ一億回という数字になってるわけですが。アルバムもエピローグとプロローグを入れて9曲。「エピローグ」から始まるというのもミソですね。
”終わり”から始まる。実質一曲目の「アンコール」は、やはり投稿小説「世界の終わりと、さよならのうた」が原作になっている。終わりから始まるというのも一つのコンセプトなんでしょう。
YOASOBIは、ボーカロイドに曲を提供してきた、いわゆるボカロPと呼ばれるプロデユーサーのAyaseと19歳のシンガーソングライターIkuraのユニット。Ayaseさんが詞曲を書いてます。ボカロぽい曲もありますが、歌がそうじゃないです。
ボカロっぽいというのはいくつかの特徴がありますね。曲が早い、譜割が細かい、言葉数が多い。絶え間ない音の刺激が施されている。8ビートとか16ビート、ファンクやR&Bといったジャンルに捕らわれてません。
そういう作りは米津さんに顕著だったわけですが。YOASOBIもその流れと言っていいでしょう。言葉もそうですね。日本語にこだわってる。一時のJ-POPの特徴になっていたサビだけ英語、みたいな作り方をしてません。
そういう言葉へのこだわり、みたいなものが「小説」という形と合体するのは必然のようにも思いました。詞が散文的なんですね。曲と一緒に流れてゆく。「聞く小説」みたいな作り方に思えました。
で、ボカロと決定的に違うのはIkuraさんの声なんですよ。アナログ的。つまり「情感」が豊かなんです。初音ミクのあの無機質なかわいらしさとは対極。そうか、初音ミクの曲を魅力的な声の持ち主が歌うとこうなるのか、という感じです。
面白いなあと思ったんですよ。アルバムのテーマになっている「死」というのもとってもアナログ的なものですし、彼女の声もそうです。ヴァーチャルかリアルかで言えばリアルなんですね。
配信でブレイクしたという意味では”バーチャル”な人たちということになるんでしょうが、彼らは「小説」の側にいる。ということは、YOASOBIがこんなに売れているということは、リアルがヴァーチャルを凌いだ、ということなのかもしれない。
ソニーには以前、ソニーマガジンズという出版の会社もありましたからね。つぶれてしまいましたけど。でも、今もソニーには「小説」志向の人たちがいて、その人たちが「音楽」で成功した、ということなのかな、とか。
若い人は「本」を読まない。「活字離れ」と言われてましたけど、「小説」からは離れてない。むしろ、近しいものになっている。「音楽」と同じように、です。YOASOBIは、「音楽」と「文字」の新時代を告げているのかもしれません。
聴きやすいアルバムです。初音ミクには馴染めないという人も全く問題ないと思います。CDはどのくらい売れるんだろうな、というのも興味の的、です。というわけで、アルバム「THE BOOK」から「群青」を。じゃ、おやすみなさい。