去年の年末に発売になった本ですね。版元は文芸春秋。音楽の本を出すことはあまりない出版社。書いたのは「ロッキング・オン」にいたという門間雄介さん。僕は面識はありません。これが最初の単著だそうです。
書評を頼まれて合間を縫いながら読んでたんですが、終わりました。端的な感想、よく書ききったなあという感じでした。大労作。頁数は500頁弱なんですが、膨大な情報量とあや取りのような人間模様が実に面白かったです。
日本の音楽史で”巨人”という言葉にふさわしい人は細野さんを置いていないと言って過言ではないでしょう。もちろん、拓郎さんとかユーミン、みゆきさんという人たちもそういう存在でしょうが、その活動のスケールという意味でですね。
1969年、エープリルフール結成に始まり、はっぴいえんど、ティンパン・アレイ、ソロ活動、YMO、HIS、スケッチショー、作曲家、プロデユーサー、映画音楽家、アンビエントミュージック。その活動は多岐に渡ります。
キャリアとしては松本隆さんと同じ時間になるわけです。松本さんは「言葉」という最大の武器で戦い続けた人なのに対して、細野さんは、つねに新しい何かを求め続けた。一つの肩書や専門性に閉じ込められることを拒否してきた人ですね。
その振幅の広さ、それぞれの時代に残してきた足跡、模索し続けた実験性。一か所にとどまっていない。日本の音楽、というドメステイックな括りに収まらずにラディカルに時代の最先端を歩き続けてきた。
50年間の軌跡を音楽のことだけでなく、精神世界から宗教、オカルト的な世界にも入り込んだりしている時期のことも書いてます。本の帯に「もうこれ以上話すことはないです」という細野さんのコメントがありましたが、だろうなと思えます。
門間さんは1974年生まれ。同年代じゃないから書けたのかもしれないなと思いました。何よりも納得したのは、インタビュー集じゃないことなんですね。もちろん膨大な関係者のインタビューをしてます。でも、それに頼ってない。
インタビューは検証材料。松本さん、鈴木茂さん、小坂忠さん、林立夫さん、松任谷正隆さん、坂本龍一さん、高橋幸宏さん、久保田麻琴さん、星野源さん、高田漣さん、といったそれぞれの時代に関わった人たち。参考文献の膨大さ。
大滝さんとかなくなった人のコメントは、残された文献から引用していたり、実にきめ細かい。ロングインタビュー偏重という垂れ流しジャーナリズムを完璧に凌駕してます。音楽ジャーナリズムの金字塔的作品と言っていいでしょう。
と、書いてから、色んな感情もあるんです。僕らの世代でこういう本を残せなかったことへの忸怩たる思い、というんでしょうか。妙な言い方ですけど、同業の端くれとして「負けたなあ」という感じもあります。称賛あっての上で、ですよ。
去年、ライブがなくて創作に時間を割いた、というのはアーテイストだけじゃない、ということですね。以前、紹介した「ザ・ブルーハーツ伝説」もこの本もそうです。小貫信昭さんのミスチルの本もありますね。
「音楽本」新時代が来るといいなあ、と思いつつ。もうちょっと頑張りたいなあと思わせてくれる本でした。さて、曲ですね。細野さんが「歌う」ということに開眼した曲、はっぴいえんど「風をあつめて」を。じゃ、おやすみなさい。