という本があります。書いたのは加藤登紀子さん。自分の歌にまつわる物語を綴った本です。これが面白かった。彼女のことは普通の音楽ファン程度のことしか知らなかったせいもあるんでしょうけど勉強になりました。
「運命のジグソーパズル」が発売されたのは4月20日。つい先日ですね。4月18日に「TOKIKO’S HISTORY」というベスト盤が出て、昨日、渋谷のオーチャードホールでコンサートがありました。それに合わせての出版ということになりますね。
アルバムは「ベスト盤」という体裁をとってますから、もちろんベスト盤なんですが、通常のベスト盤のようにヒット曲や代表曲が集められているわけでも、年代順に並んでいるわけでもない。なぜこの曲が入っているのかという意味がちゃんとある。
それを綴ったのが「運命のジグソーパズル」なんですね。章立てが「遠い祖国」「この世に生まれてきたら」「愛の讃歌」「百万本のバラ」「ひとり寝の子守唄」「あなたの行く朝」「時には昔の話を」「蒼空」という順。全部アルバムの中の歌の題名ですね。
「遠い祖国」では、生まれ故郷の満州と両親の話や敗戦後の必死の引き揚げ体験、更に帰国後の両親の仕事や人間関係。ロシア語を学ぼうとした父親が実は歌手志望で日本に帰ってからキングレコードのデイレクターだったとか、初めて知った話が色々ありました。
でも、すごいのは歌にまつわるエピソードですね。ロシア革命やフランス革命、第二次世界大戦やベトナム戦争、パリ5月革命、チェコの民主化革命や天安門事件、歴史のはざまで人々が求めた自由や平和。それを圧殺してきた巨大な力。その間でどんな歌が生まれたのか、を一つ一つ結び付けながら書いている。
しかも、文献や資料でそれを読み取ったり解釈したりするのではなく、自分でそこに行って歌い、作った人やその遺族に会うことで確かめてゆく。こんなに行動的で研究熱心な歌い手だということに驚かされました。
それも意図した出会いではなくて偶然だったりね。それが図らずも繋がっていたというような発見。それは見落としてしまったり関心を持たなかったら気づかないようなことなんですね。その歌が歌われた日がどういう日だったとかね。
昨日のオーチャードホールで彼女は「自分の始まりを歌う」ということで「1968年」をテーマにした曲を多く歌ってました。なぜ1968年だったのかは、この「運命の歌のジグソーパズル」に劇的につづられてます。
1968年。世界が激動していた年。ちょうど半世紀前か。さっき上げた中でパリの5月革命やチェコの「プラハの春」、東大や日大の全共闘に象徴される学生運動。アメリカのフラワームーブメントやブラックパワーもありました。
彼女はそんな中でソ連を40日間旅して身を持って体験するんですね。そこで出会った歌や人の話も出てきます。後にご主人になる藤本敏夫さんと出会ったのもその年だったという話もあります。
決して商業的とは言えない歌をなぜ歌ってきたのか。それでも彼女が揺るぎない支持を得ているのはなぜなのか。「運命の歌のジグソーパズル」と「TOKIKO’S STORY」は如実に示してます。
例え、「作者不詳」とされている歌にも作者がいるでしょう。誰がなぜその歌を作って、どんな人が歌ってきたのかを知ることは、その歌を改めてかみしめることでもあります。歌に説明は要らないというのも正論でしょうけど、あった方が深まるというのも正論でしょう。
加藤登紀子さん、明後日NACK5「J-POP TALKIN’」でのインタビューなんですよ。何度かご一緒してますけど、ちゃんとしたインタビューは初めてかもしれないんです。身が引き締まってますよ(笑)。
というわけで、曲ですね。「TOKIKO'S STORY」の一曲目「時には昔の話を」を。そういう年なんでしょうね。昔話もしないと忘れてしまいますからね。じゃ、おやすみなさい。