新曲と言っても、4月の末に出ましたから、もう若干時間が経ってますね。もっと前に書こうかなと思ったりしてたんですが、バタバタしてそのままになってました。今日、何気なく耳に飛び込んできたんで、そうだ、と思い出して、改めて書いてます。
というのは、ちょっと大げさかな。でも、良い曲なんですよ。タイトルは「みなと」。NACK5「J-POP TALKIN’」でオンエアした時にも話したんですが、彼らにしては珍しいタイトルでしょ。自然や花鳥風月でもない。具体的な場所、情景です。イントロのギターから、どっか哀愁がある。
スピッツというと、さわやかとか、みずみずしいとか、切なさとか、形容される言葉が決まってるきらいもありましたけど、そういう感じではないです。憂い、物思い、漂泊、という感じの音ですね。どっか淡々とした物憂げさ。トーンも低い感じです。
で、みなとですよ。旅の始まりの場所。ここからどこか遠くへ旅立ってゆく拠点。目の前には遙かな海原が広がっている。あるいは、旅から帰ってくる場所。出港と寄港。それぞれのドラマがある場所。舞台の選び方としては、旅の歌を多く歌ってきた彼ららしい、とも言えます。
でも、ちょっと違うんですよ。その両方でもない。なぜそこにいるか。”船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる”わけです。”知らない人だらけの隙間で 立ち止まる”という状態。”遠くに旅立った君に 届けたい言葉を集めて”いるわけです。
”港”を舞台にして、船に乗るわけでも旅立つのでも、ましてや「岸壁の母」みたいに誰かを待っているわけでもない。その港がどういう港かと言いますと”錆びた港”なんですよ。面白いなあ、と思いました。”錆びた港”なんですよ。どんな港なんでしょうね。
青函連絡船の桟橋や埠頭みたいに、使われなくなった港、でしょうか。”錆びた”という言葉で真っ先に思い浮かぶのは、裕次郎さんの「錆びたナイフ」でしょう。男のロマンのような語感。そこから”遠くへ旅立ってしまった君”を思いながら歌っている、という主人公であります。
”君ともう一度会うために作った歌”なんですよ。さあ、どんな人をイメージしますか。離れていった君、去って行った友、もう会えないあの人、そこから出て行けなかった”僕”。「ロビンソン」や「空も飛べるはず」とは違います。「魔女旅に出る」や「放浪カモメはどこまでも」じゃない。前作のシングルは「僕はきっと旅に出る」でしたからね。今までにはなかった歌、という気がします。
今年結成30周年。どんなことを考えながら作った歌なのか、考えたくなる歌であります。アルバム、きっと出るんでしょうけど、楽しみにしたい、そんな一曲でした。ということで、スピッツ「みなと」。じゃ、お休みなさい。