という映画があります。1983年の佐野元春さんのツアーを記録したドキュメンタリー。当時、フィルムコンサートに使われたりしたものの、その後、行方が分からなくなっていたものがレコード会社の倉庫から発見された。それをデジタルリマスタリング処理をして復刻したというものです。
当時、見た記憶があるんですが、音が作り直されているだけあって全く別の作品を見ているようでした。BOO/WYの「1224」もそうでしたけど、音の威力はすごいです。ライブ会場にいるみたい。その試写会で色んなことを考えてしまいました。考えると言うより感慨に近いかな。
83年の佐野元春がどういう状況だったかを説明しないといけませんね。80年にデビューして3年走り続けたピークという感じでしょうね。「ガラスのジェネレーション」の歌詞のように”つまらない大人にはなりたくない”という世代の旗、新しいロックの旗を敢然と掲げた3年間でした。
収録されているのは83年の中野サンプラザ。彼は、このライブを後に活動を休止、単身ニューヨークへ渡ってしまうんですね。その置き土産のようなライブ。ものすごいエネルギーとテンション。今見てもそれに圧倒されます。スピード、パワー、切れ、こんなにすごかったんだ、と今だから特に思いますよ。
時間が経ったから余計クリアーになることってあるんですね。明らかにそれまでのビートと違う。こんなビートで歌った人は当時はもちろん今もいるかなと再認識させてくれます。都会の詩情、アスファルトのポエジー。彼が60年代のビート詩人に影響されていることも鮮明に伝わってきます。
撮影は井出情児、甲斐バンドの写真集や映像を撮っていた、というか、日本のロックを誰よりもシャープに記録していたカメラマンですね。もちろん彼も写ってるんですが、そういう周囲の人たちの姿にも感慨を覚えてしまったんですよ。ステージのスタッフや撮影スタッフ。そして、関係者のクレジットね。
今、何してるんだろうとか、彼も亡くなったなあとか思ってしまった。そういう意味での時間の記録になっていた。30年経っているんだから仕方ないでしょうけど、妙にしみじみしてしまったんですよ。クレジットの中には、拓郎さんのCBSソニー時代のデイレクター、前田仁さんの名前もあったりね。彼も故人です。
感慨はそれだけじゃないな。その頃の佐野さんのようなこういうインパクトが今、あるだろうかとかね。この勢いが彼個人だけじゃなくて、シーン全体にあったんだとしたら、今はどうなんだろうとか。この頃の方が面白かったのかもしれないとかね。見てからずっとひっかかってるのはそれかな。
今の時代が一番面白い、僕はそう思っていろんなことを見てきたつもりなんですね。実際そうだと思ってましたし。でも、この映画を見てふっと思った時に、そう思えない自分がいた。それはこちらの精神的な老化なのか、ほんとうにそうなのか、自分で判断つかなくなってしまった感じでした。どうなんだろうなあ。今の時代が一番面白いと思っている人もいるんでしょうし。
というようなことを考えてます。でも、寝ると忘れます(笑)。83年の佐野元春、すごかったです。もし、機会があれば。9月7日から映画館公開です。というわけで曲です。あらためて「ガラスのジェネレーション」を。じゃ、お休みなさい。