終了、というとどっか事務的な感じもしますけどね。終わり、という感じでもない、終わったねえ、終わったなあ、あーあ終わってしまった、そんなしみじみした感傷的な寂寥感もありつつ、充実した満足感に包まれているという感じでしょうか。
毎回、そうなんですが、良い三日間を過ごせたなあという気持ちで一杯です。まだ夏は始まったばかりですが、今年の夏が今までで一番楽しかったと思えるだけの三日間にはなりました。2010年の夏はこれで十分、後はおまけと言っても過言ではないかもしれません。
ほんとに良い三日間でありましたって、もう分かった、と言われそうですけど(笑)。ap bank fesは、今年で6回目。今までの蓄積と評価にとどまらずに新しい何かを目指す潔い意志のようなものを感じたわけです。フェスとしての攻めの姿勢というんでしょうか。
状況をご存じない方には分かりにくいかもしれませんね。ap bankというのは、音楽プロデユサーの小林武史さんとミスチルの桜井和寿さんが、一生活者として未来のために何か出来ないだろうかというところからはじまってます。
彼らが作ったバンドBankBandの一枚目の「沿志奏逢」に桜井さんの、子供が出来て父親になった時に、将来、「こんな世の中になるのが分かっていて何で生んだんだ、と子供から言われないように、何か出来ないかと思った」という話が載ってますね。
ap bankは、そういう環境保全などに地道に取り組んでいる民間団体に低利子で融資しようという非営利団体です。つまり、普通の銀行のようにお金儲けのために融資するのではないわけです。このフェスの収益はその原資になります。
しかも、フェスの電源などのエネルギーは、自然エネルギーで、出店している飲食ブースなどもたとえば、自然農法などを取り入れている農場などの食材を使ったり、同じエリアでシンポジウムなども行われてます。つまりテーマ性がきちんとあるフェスなんですね。
これまでも、一回目に出た浜田さんや陽水さん初め、小田さんや桑田さん、去年の矢沢さんのように、通常の夏フェスに参加しないようなビッグアーテイストが出るというのも一つの話題性になって、フェスの価値を高めてきました。
なぜ、そういう豪華なラインアップが実現したかというと、理由は三つでしょう。ひとつは、そういう音楽を通して目指すものが見えること。音楽に何が出来るかを具体的に分からせてくれていること。二つ目は、小林さんと桜井さんが持っている音楽へのリスペクトの心でしょう。
そして、三つ目は、BankBandの存在ですね。お二人を中心に、ギターの小倉博和さん、ベースの亀田誠治さん、サックスの山本拓夫さん,ドラムの河村”カースケ”智康さんら超一流メンバーが全ての参加ゲストのバックを担当するという音楽的なクオリテイの高さです。
今年は、これまでとちょっと違う試みがいくつかありました。それが最初に書いた新鮮さや潔さを感じさせることにもなったんですね。その最たるものが、出演者の中の”バンド”の比重でありました。三日間通して、彼らの真剣な演奏がすがすがしくスリリングだったわけです。
スリリングと言っても危険性があるとか、何が起こるか分からない的なハプニング性を孕んでいるというのではないですね。真剣勝負のスリルというんでしょうかお義理やお仕事で出ていない。誰もが一世一代の演奏を見せるという気概に満ちていました。
インデイーズの世界の終わりやモンゴル800、レミオロメン、ゴーイングアンダーグラウンド、THE BAWDEIS、フラワーカンパニーズ、真心ブラザーズ、ドラゴンアッシュ、エレファントカシマシ、lego big morlと言った、若手中堅を問わないバンドたち。ミスチルもですね。
更にファンキーモンキーベイビーズやライムスターというヒップホップ系の人たちがBankBandの生演奏をバックにパフォーマンスをするわけです。中には、何で、俺たちが呼ばれたんだろうと言った人たちもいました。彼らが、自分たちの存在証明のようなガチンコのライブをするわけです。
それはスリリングになりますよ。そういう多彩な音楽の競演を素直に受け入れて楽しんでいた客席も素晴らしかったわけです。夏フェスの面白さは自分たちの音楽に関心のない人たちもいる中で、それれが自己主張する面白さですが、ハイレベルな濃密さでそれが展開されました。
バンド以外でも、久保田利伸さんやCOCCOさん、PUFFY、Salyu、スキマスイッチ、阿部真央さん、KANさん、クレージー剣バンドの横山剣さん、かまやつさんというGREATアーテイストがBankbandをバックに歌うんですからすごいふり幅でした。
タイプの違う人たちがいるからこそ見えてくることがある。共振というのは同じバイブレーションの中から生まれるだけでなく、時には、一見異質と思える触媒を通してこそ数倍の広がりを見せることがある、そんな光景を見た気がしました。
そう、テーマ性の落し穴というのもあるんだと思うんですね。それが正論であればあるほどそこに陥りやすい。それに沿わないものは排除されやすい。そうやってひとつの予定調和が出来あがってゆくんですが、それが見えませんでした。
ライブの最後がミスチルではなくBankBandだったんですよ。それが新鮮だったんですね。そうか、これが見たくてこのフェスに来ているんだという確認ももらいました。選曲に感動しましたね。個々の曲はホームページを見てほしいのですが、これだけは触れておきたいという曲がありました。
「煙突のある街」と「僕と彼女と週末に」の二曲が並んでました。ともに80年代の曲ですね。小山卓治さんと浜田さん。今のようにエコが定着、市民権を得ていない時代。環境問題や公害問題として語られていた時代。こうした歌は、煙たがられる側にいました。
あえてこの二曲を続けたところに、バンドの比重と同じように予定調和に終わらない意志を感じたわけです。「僕と彼女と週末に」は、82年の曲ですが、あの時のツアーにはステージに地球が登場してました。コンサートで地球が、ある種の警鐘として使われた最初じゃないでしょうか。
今回は違いましたね。最後はポップなイラストのガイコツとハート。それも掌に収まる、ぬくもりに満ちた小さなハート。同じテーマを持ちながら、表現はその時代で変わってゆく。このフェスの素晴らしさを見た気がしました。もはや警鐘で済む時代ではないんでしょう。
長々と書いてしまいましたが、かまやつさんと久々にゆっくりと話が出来たこともうれしかったわけです。70年代話をする中で、74年の「郡山ワンステップフェステイバル」の話になりました。緑と環境を掲げて行われたロックフェスの最初の例でしょう。
オノヨーコさんが出演したことでも知られてますが、当時のロック系ミュージシャンがほとんど出て、一週間にわたっておこなれた大イベントでした。でもね、教育委員会が「ヒッピーたちが街を荒らしに来る」と大反対して、18才未満は参加禁止になったんですよ。
私財を投げ打った郡山の老舗ブテイックのオーナーは、結果的に赤字を背負ってしまい、店や土地を手放さざるを得ませんでした。あのイベントには、かまやつさんも出てましたからね。そんなことを思い出しながら「良い時代になったね」という話をしてました。
長々と書きましたが、そんなところでしょうか。それぞれのパフォーマンスや色んな場面の感想はありますが、それは、他の機会にでも。猛暑の中での出演者、スタッフの方々、参加された素晴らしい観客の皆様。お疲れさまでした。ありがとうございました。見ているだけの僕らですが、来年も三日間を過ごせる健康体でいられますように。
もう夏はいいや、これで終わり(笑)。明日からはもう秋、でも永遠の太陽を惜しまずに生きようと思いますって、言いながら、今週の日曜日も「つま恋」だよ(笑)。「拓郎展」でのタムジンと対談です。遠いところですしねえ。来ていただいた方には本のサインでも何でもしますよ。「ジョイン」で拓郎さんのパネルでも見ながらみんなでビールでも飲みましょう。
というわけで、曲です。BankBandの「僕と彼女と週末に」。彼らの最初のアルバム「沿志奏逢」のシークレットトラックに入ってます。シークレットに「イメージの詩」が入っているものもありました。その二曲だというだけで、これ以上説明は不要かもしれません。あ、例によって書きっぱなしなんで、誤字脱字ご容赦ください。じゃ、おやすみなさい。